【東京建物様事例:前編】テナントの満足度向上へ ―新たな清掃基準を策定

施設管理は労働集約型であり、これまで人に依存していた。ただ、人手・人材不足、最低賃金の上昇といった課題が年々強まるなかで、ビルオーナーはテナント従業員の満足度を高めなければならない。東京建物グループでは、ビルを利用する人たちから「次も選ばれる」ための施策をSmartBXとともに考え、実行した。

施設清掃を維持する難しさ

ビルクリーニング(施設清掃)には、主に4つの主目的があると言われている。

  1. 衛生的環境の確保(衛生的で快適な環境を保つこと)
  2. 美観の維持(建築物の美観を維持すること)
  3. 建材・設備の安全(建築物の諸機能を長持ちさせること)
  4. 安全性の確保(安全な状態を確保すること)

多くの人たちが、ビルで仕事を行い、生活も営むうえで、安心かつ安全に活動ができるよう常に快適な状態を維持することがビルクリーニングの仕事の目的である。ビルメンテナンス会社は、この目的の達成のために多くの人手をかけて、日々、業務に勤しんでいる。 

しかし、年々労働生産人口が減少するなかで、果たして満足のいくサービスを提供し続けることができるだろうか──。

今後の時代を見据えた建物管理の在りかたを模索したのが、東京建物グループである。「Human Building~いつも、真ん中に人。~」をビジョンに掲げ、施設利用者をハード面のみならず、ソフトやサービスの面でも「安全・安心・快適」を感じてほしいと考えた。また、ビルのテナントや利用者から「次も選ばれる」ために、デジタル技術を積極的に活用した取り組みを開始。人手不足解消に向けた清掃ロボット導入やセンサー、二次元コードを用いた最適なサービス提供、さらにはビル管理を主体とした専属コンシェルジュを配備することで、ホスピタリティを高めるなど、人にしかできないこととデジタルだからこそ実現したことがうまく調和した。 

東京建物の本社機能を有している東京建物八重洲ビル(東京都中央区、以下:八重洲ビル)を中心に、テナントの満足度向上に向けた実証実験が活発化している。デジタルツールを活用した建物管理のスマート化の実態を追った。

ビルの快適環境を目指して

コロナ禍においてビルの在りかたが変わり始めた。テレワークが普及し、ワーカーの働きかたの幅が広がり、家で仕事をしたり、サテライトオフィスを活用したり、一つの拠点にとどまる必要がなくなった。一方で、大企業では脱テレワークの動きが活発化。対面によるコミュニケーションの重要性を再認識し、会社に足を運びたくなるような働く環境の整備も進んでいる。

2020年、当時、東京建物に所属していた園部稔雄氏(現:東京不動産管理 取締役執行役員)は、いち早くワーカー一人ひとりが「ここが自分のビルだ」と自認することができる施設づくりを目指した。 

「私たちもそうですが、お客様が、会社に行きたくなる環境づくりということを考えたときに、家も会社も快適であることが重要だと社内で話していました。そういう意味で、年々、ビルに対する要求というのも高まっていると思ったんです」 

ビルの賃料に対する十分なサービスを提供できているのか──。特に、清掃や空調設備といった、施設利用者の快適につながるサービスが十分に行き届いているのかを疑問視した。 

《表1》は同社がテナントに向けて毎年実施している「お客様満足度調査」(2020年度)の回答数上位項目である。

不満のなかで上位に挙がるのが「空調温湿度」といった設備に関するハード面の課題もあれば、ランキング外ではあるが、ビルスタッフの態度といったサービス提供者のソフト面の課題も浮き彫りになったという。その結果を受けて、園部氏は次のような見解を述べた。 

「人手が足りないということで、昔では起きていなかったミスというのも起こりやすくなった。あとは、その時代時代によって施設利用者から求められることも違えば、設備や技術、ビル管理の方法も異なります。ここが『自分たちのビルだ』と感じてもらうには、安全・安心・快適さを常に追求していかなければなりません」

八重洲ビルでは、同社以外にも別のテナントも入居していることから、さまざまな施策を講じている。2020年には、賃室内に設置のセンサーによる温湿度データと空調機の運転データを用いてAIが解析し、空調制御を行う「AI空調制御システム」を導入したり、紙で行っていた点検業務をデジタル化したり、先進的な取り組みを進めていた。しかしながら、満足のいく費用対効果までは出せなかった。

清掃のDX化

転換期は2022年──。ソフトバンクロボティクスとくうかんとの合弁会社としてSmartBXが誕生。東京建物グループは、SmartBXと出会った。SmartBXでは「AI清掃」という、床面の清掃作業を清掃ロボットに任せ、センサーで施設の利用頻度を測定することに加え、二次元コードによるリクエストにより、必要なときだけ清掃スタッフが対応する独自の「リクエスト・オンデマンド清掃」を組み合わせることで、品質を維持しながら、業務の効率化を実現する清掃手法を提唱している。

東京建物グループのビジョンである「Human Building」に「DX」の概念を加えることで、新たなビル管理の在りかたを模索できるのではないかと考えた。園部氏は、当時を次のように回想する

「顧客満足度というのは、単純にその瞬間のきれいさ、清潔さだけではなくて、コミュニケーションが取れているのかというのも重要だと思います。例えば、『ごみがいっぱい』とお客様が気がついたときに、誰に言えばいいのかわからない。逆に、清掃する側も『言ってもらえたら対応できるのに……』という具合に、現場ではそうしたジレンマがあるなと」 

東京建物グループとSmartBXは、テナントの満足度向上をゴールとし、まずは清掃品質向上(不満足度解消)を目指すことにした。

清掃品質のなかで課題となっていたのが、トイレの水回りであった。洗面ボウルが浅く設計されていることから、水が周囲に跳ねてしまうため、洗面台には常にスクイージーが置かれている(写真1)。清掃スタッフが四六時中、対処できるわけではないため、気になる人がいれば自主的に清掃できるような処置を施していた。しかしながら、東京建物側で策を講じたとしても、なかなか顧客満足度は上がらなかったという。

テナントへの聞き取り、改善に向けた取り組みを行っていた東京建物のビルマネジメント第一部の伊熊洋介氏は、次のように考察した。 

「清掃、設備、警備、みんなの力を借りながら、意識啓蒙だったり、品質の向上だったり、ここ10年くらい動いて少しずつCS(顧客満足度)を上げてきましたけど、頭打ちの状態でした。ビルに対する潜在的な不満というのは皆さん、お持ちなんですけど、それを伝える場面というのがありません。クレームになるのは、そうした不満が募った状態なので、二次元コードを読み取って、誰でもその状態を逐一報告することができるという仕組みは、お客様の声を吸い上げるという点で非常に大きな取り組みですし、われわれとしてもCS向上のチャンスだなと感じました」 

東京建物グループとSmartBXは、人感センサーを活用し、八重洲ビル内のトイレ利用率や共用部の人流調査を実施することから始めた(写真2)

その調査と検証結果をもとに、SmartBXでは3つの施策を提案した。

 

次回は、「Human Building by DX」と題した新たな清掃標準に向けた取り組みとその驚きの効果についてレポートしていく。 

《後編へ続く》施設管理のDXが実現しても人による価値が向上した理由...

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