【東京建物様事例:後編】施設管理のDXが実現しても人による価値が向上した理由わけ

月間30時間の工数削減

東京建物グループの施設清掃を担うのが、東京ビルサービスだ。東京駅周辺に多くのビルを保有する東京建物グループにとって、管理人員の確保は骨が折れる。東京建物八重洲ビル(東京都中央区、以下:八重洲ビル)を起点とした周辺の現場もおよそ2人工ほどの不足を感じていた。 

その矢先に、オーナーである東京建物からの清掃ロボット導入と、SmartBXが介入し設計した「Human Building by DX」の提案を受けた。東京ビルサービスの営業企画部長・丸山崇氏は、新たに始まる取り組みをどう捉えていたのか。

「実証実験では、専用部に清掃ロボットを走らせるということで、始めのころは『意味あるかな……』と懐疑的でした。ただ、共用部だけでは少しの作業時間が減った程度で、ロボットのコストだけがかかってしまいます。専用部も使用できるとなると、一定の効果が生まれるのかなと頭を切り替えました」 

DX清掃ロボット「Whiz i アイリスエディション」の操作説明や運用にあたってのアドバイスをSmartBXから受けたり、同業他社の清掃ロボット導入の実際をベンチマーキングしたり、試行錯誤を重ねた。

「どの会社もそうだと思いますが、現場はロボットが入ることをネガティブとして捉えます。シニア層が中心ということもありますが、スマホの操作もままならないのに『ロボット』というところに抵抗感があるのだと思います。それと、1日のシフトが変わってしまうので、それに対する不平不満もありました」 

丸山氏は、清掃ロボットの操作や運用状況を「よろしくね」と現場に任せっきりにするのではなく、早朝から現場に入り、積極的に「Whiz i アイリスエディション」に触れてきた。もともと、現場とのコミュニケーションを密にしていたということもあって、丸山氏の姿勢を目の当たりにした現場スタッフから、「私も協力する」という好意的な意見も増え、清掃ロボットが徐々に定着してきた。 

テナントへの聞き取り、改善に向けた取り組みを積極的に行っていた東京建物ビルマネジメント第一部の伊熊洋介氏と長倉由佳氏。なかでも建物管理のDX化に向けて動いていた伊熊氏は、東京ビルサービスのある変化を感じたという。 

「他社の清掃ロボット導入に関するヒアリングをすると、どんなに早くても稼働まで半年かかると聞いていました。ただ、丸山さんが積極的に「Whiz i アイリスエディション」のルート変更だったり、効率よく動く運用を試行錯誤されていて、導入から3か月でうまくいきました。現場の皆さんの意識も変わっていきましたね」 

八重洲ビル内では、2台の「Whiz i アイリスエディション」が走っている(資料1)

実証実験では、人によって週5回実施されていた除塵作業を「Whiz i アイリスエディション」が代替し、30時間の削減に成功。これにより、もともと足りなかった人員分の作業時間を補い、既存の現場スタッフは圧迫していた作業から解放され、他の作業に注力することができた。 

要求に応じた清掃を実現

SmartBXは、ロボット導入の支援とともに、「ピープルカウンター」を用いた人流調査を八重洲ビル内で実施。共用部廊下の人流がどのくらいなのか通行量を測定することで、適切な清掃回数を決めることにした。 

さらには、トイレに二次元コードが記載されたスタンドを設置(写真1)
施設利用者自らが、その二次元コードを読み取ることで、専用フォームに遷移。依頼したい事項、状態などをラジオボタン方式で簡単に選択することができ、その通知を受け取ったスタッフが対応にあたるというもの。

このセンサーと二次元コードによって、従来からある隈なく施設を巡回する清掃形態から脱却。各スタッフの経験や勘などに頼ることなく、デジタルの力によって効率的かつ満足度の高い作業を実現させた。 

すでにこの取り組みは横展開し、八重洲ビルの近隣に位置する東京建物日本橋ビル(以下、日本橋ビル)、日本橋TIビル(両施設ともに東京都中央区)の3拠点でもセンサー108台、二次元コード152枚設置の実証実験が行われた。 

清掃仕様を見直す

センサーと二次元コードを導入した当初は、SmartBXのコンシェルジュが通知を受け取り、その後、東京ビルサービスのスタッフへ通達するという手順を踏んでいた。コンシェルジュの業務は他にも、テナント従業員の目線でATPふき取り検査を用いたセルフインスペクションを実施したり、清掃ロボットの不具合対応を行ったり、トイレにお花と手書きのメッセージを添えるなど、ホスピタリティにも注力している。

そんななか、コンシェルジュからの通知を受け取る東京ビルサービス側は、現場責任者クラスの特定のスタッフしかいなかった。丸山氏は、そうした現状を打破するために、タブレットの導入を決めた。

「スマホやパソコンだと1、2名くらいしかその通知を見ることができません。作業に入っていれば、すぐに確認することもできませんから、控室にタブレットを置きました。作業から戻ってきたらまずタブレットを確認して、通知があるかないかをチェックする。これであれば誰でもできることなので、すみやかな対応につなげることができました」 

 実証実験では、1名のコンシェルジュが八重洲ビル、日本橋ビル、日本橋TIビルをサポートし、オンデマンドのリクエストについては、清掃関連は東京ビルサービス、設備関連は東京不動産管理がそれぞれ担当することになった。

当然、リクエストの回数や人流の閾値はコントロールすることができないため、これまでのような巡回清掃を見直したり、除塵作業はロボットが代替したり、清掃の負担がかからないようこれまでの仕様を調整したという。 

テナントからの喜びの声

テナントの満足度向上を目指し策定した「Human Building by DX」。デジタルツールを用いて施設の利用状況を見える化し、ピンポイントの清掃対応を可能にした。また、清掃ロボットの導入によって、人がすべき作業を見直し、業務オペレーションを洗練していった。 

 効果としては、コンシェルジュが群管理していた3拠点で月あたり最大約132時間の削減に成功。当然、テナント満足度も高水準をキープし、2023年12月〜2024年1月に3拠点のテナントにアンケートを実施したところ、平均で82%が継続してほしいと高く評価した。なかには、「コンシェルジュの活動内容も視覚化されていて、気持ちが良かったし、ビルをよくしようとしていることがテナントに自然に伝わると肌で感じた」や「Human Buildingの精神として、顧客に寄り添うという意味でエモーショナルな温かさを感じる点がとても良かった」など、フリーコメントで熱烈な意見も多く寄せられたという。 

また、オンデマンド清掃のなかには、「Good」という項目もあり、リクエストの半数がこの「Good」を選択し、日々の業務をいたわってくれるのだという。丸山氏は、「通知がくると現場スタッフも『ドキッ』としますが、『Good』を確認して安堵しますね」と笑みを浮かべた。 

DXだからといって、人と人のコミュニケーションがなくなることはない。むしろ、これまで各々の内に秘められた感情を手軽に顕在化することができるようになった。コンシェルジュの存在も相まって、テナント従業員から「改善のために動いてくれている」とプラスに捉えているのだという。 

「Human Building by DX」の中心メンバーである東京不動産管理の園部稔雄氏は、これまでの成果について次のように言及した。 

「SmartBXには、コンサル的な役割のことをしていただいて非常にありがたいなと思っています。デジタル化を進めるとともに、その真逆に位置しているようなお花やメッセージカードという発想にも辿り着きました。今後の建物運営においてデジタルの力は欠かせません。これからも時代に沿ったサービス設計で、お客様の満足度を向上していきたいというのが私の気持ちですね」 

清掃ロボットを中心とした、現場の作業オペレーションに尽力した丸山氏も「Human Building by DX」をどのように捉えているのだろうか。 

「清掃ロボットの定着というのは、現場次第だと思います。最近では、多くのラインナップが出てきましたが、結局はロボットメーカーと現場との関わりかたなのかなと。SmartBXは、インテグレーターとして『定着するためにはどうしたらいいのか』と、一貫して現場に来て面倒を見ていただいて、本当にありがたかったです」 

DXでも揺るがない人の価値

ビルクリーニング(施設清掃)には、主に4つの主目的があると言われている。 

  1. 衛生的環境の確保(衛生的で快適な環境を保つこと)
  2. 美観の維持(建築物の美観を維持すること)
  3. 建材・設備の安全(建築物の諸機能を長持ちさせること)
  4. 安全性の確保(安全な状態を確保すること)

労働集約型産業として、当然のごとく、人手が不可欠である。しかし、労働生産人口が減少するなかで、以上の目的を果たすことが困難になりつつある。

解決方法は、今回の東京建物グループとSmartBXがなし得た「Human Building by DX」にある。デジタルの力によって施設の状態、顧客の潜在意識を見える化し、従来の清掃シフトを見直す。さらには、人が飽きやすいと感じる単純作業をロボットが代替することによって、人は省人化しつつも付加価値の高い作業と顧客満足を高めるホスピタリティに注力することができる。

 そうしたスマートな管理手法によって、建物の安全・安心・快適を保っていくわけであるが、東京建物の伊熊氏もそこに大きな手応えを感じている。

「ここ数年、当社としてはDXにアクセルを踏んでやってきていますので、今後も継続したいという気持ちは変わりません。その結果として、お客様に対するサービス水準を高め、満足度を上げていく。ここにつながると信じていますので、より前進したいという想いがあります」 

東京建物グループのコンセプトである「Human Building~いつも、真ん中に人。~」は、「ここが自分のビルだ」と自認できるような建物運営を目指してできたものである。デジタルの力を起点に、多くの改善を図ってきた東京建物グループとSmartBXだが、デジタルやロボットはあくまで黒子と認識している。そこで働く人たちのために、どうすれば喜んでくれるのか、快適に感じてくれるのか、それを考え、実行するのは人であるわけだ。 

《完》

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