仕様書に基づく清掃から品質保証へ―― 
DXとコンシェルジュで描く清掃の新世界!! 

可視化事例 SmartBX株式会社xデジタル清掃 事業開発部スマートFMコンサルティング室 室長 池田 潤

メーカーから新たなビルメンテナンス会社へ

2019年3月、ソフトバンクロボティクス株式会社は、業務用バキュームAI清掃ロボット「Whiz」を発売し、それまで停滞気味だった清掃ロボットの興味関心をかっさらった。発売から1年足らずで「Whiz」の世界販売台数が1万台を突破。コロナ禍には「Whiz」の後続機である除菌清掃ロボット「Whiz i」を発表し、床に潜んだ「隠れダスト」を確実に除塵することで、歩行時に舞う浮遊菌量を減らすことを科学的に証明するなど、従来の清掃ロボットとは異なるアプローチが功をなした。

 それを裏付けるかのように、小売店や宿泊施設のオーナーからの引き合いが強かった。

 ただ、清掃業界の深刻な人手不足を救うための清掃ロボットを、どう現場に普及させ、清掃サービスを生業にする会社に普及することができるのか。運用面について課題を残した。

 考えた末、2022年5月2日、ソフトバンクロボティクスは、株式会社くうかんとの合弁会社としてSmartBX株式会社を創業させ、これまでにない「デジタル清掃」(資料1)を引っ提げ、ビルメンテナンス市場に参入することを決めた。

 「メーカーとして、『清掃ロボットは簡単です』と言っても、現場スタッフからすれば、『難しそう』という抵抗感と、あわよくば『自分たちの仕事が奪われるかもしれない』という危機感を募らせます。私たちとしては、ロボットを使ったオペレーションはそんなに難しくないし、業務が縮小するのではなく、人としての清掃の付加価値を上げることを体現したかったのです」

 そう話すのは、SmartBX事業開発部スマートFMコンサルティング室の池田潤室長だ。池田さんは、かつてWhizの営業も担いながら、現在では、オーナーに対してデジタル清掃の提案を担う立役者の一人である。

 同社が成し遂げたいことは、単にロボットを普及させることではなく、Whizの名前の由来となった、ウィズ・ピープルだ(with people)。ロボットがすべての作業を行うのではなく、単純作業をロボットが、複雑のところを人が行う、新しい清掃形態を模索することであった。

 「ロボットの使い方だけを教えるのではなくて、清掃業務とセットでお話をすると、施設そのものを維持するための利益が落ちているのではなくて、収益率が上がるということで納得いただけるケースもあります」

資料1

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診断と提案から運用へ。日常、巡回清掃が変わる

SmartBXが進めるサービスは主に3つ。

① コンサルティングサービス

 まずは、従来の清掃業務を見直し、ロボットで一部の清掃を代替できるのか。また、センサーで施設の利用頻度を測定し、クラウドを活用して必要なときだけ清掃を行うというオペレーションで、どれだけのコストダウンと品質を担保できるのか、デジタル清掃に必要なシミュレーションを実施していく。

 「われわれがオーナーと話すなかで、どういう清掃をしてほしいのかということを大切にしています。また、いままでの清掃で満足しているのか、課題感は何なのか。流れ作業のような仕様ではなく、もっと違うアプローチで清掃することによって、入居しているテナントさんも喜ぶのではないかという視点を常に持っています」

 当然、デジタル清掃はすべてに適応できるものではない。延床面積が広く、日常清掃で月額100万円以上を外部委託しているような施設であれば、デジタル清掃の強みが活かされるという。

② スマートファシリティマネジメントサービス

 ロボットやセンサーなどのデジタルテクノロジーを活用した日常清掃の実現こそが、同サービスとなる。ロボットを用いた清掃は安易に想像がつくが、各種センサーを用いることでどういった変化が起こるのか。

 「たとえば、商業施設のトイレは1日3回と仕様書で決まっているとします。われわれで各トイレにセンサーを取り付けたところ、あるところは1日に10回程度しか使われていないところがあって、頻度の濃淡が見えてくるんですね。本当に、一律3回の回数が必要なのか。利用傾向を見たうえで、実際の汚れ具合を確認し、閾値を設定していきます。われわれの実績では、センサー管理によりトイレ清掃回数を減らすことで、月間の清掃時間を100時間以上削減することができました」

 清掃現場では、突発的な汚れが発生することもある。その場合は、利用者自らが、「ユーザーリクエスト」というかたちで専任のスタッフ(コンシュルジュ)を呼び出すことができ、スポットで対応できる環境をつくり上げている。すなわち、「オンデマンド清掃」と同社では呼称している(資料2)。

資料2

③ コンシェルジュサービス

 オンデマンド清掃に切り替えることで、これまでの「巡回清掃」が、仕様書に基づいていたり、あるいは現場の勘によるものだったのが、リアルタイムな環境に合わせたオペレーション体制を整えることができる。コンシェルジュは、携帯しているスマホやタブレットなどのデバイスに通知があり、呼ばれたら駆け付けることで問題を解消していく。

 「先ほど話したように、センサーによって一定の閾値を決めることで、対象現場に駆け付けるアプローチと、利用者が気になった汚れに対して駆け付けるという2つのアプローチがあります。清掃スタッフが見たきれい・汚いと、テナント様が感じるきれい・汚いというのは、やっぱ違うんですよね」

 清掃する側と、その施設を利用する側の微妙な行き違いには、従来からある仕様書によって如実に出てきたという。

 「実証実験を進めるなかで、施設の利用者様から『ガラスの指紋が目立つ』と発信がありました。素人目線からだと『拭こう』と感じますが、ある清掃会社さんは『このガラスは仕様に入っていなから拭けない』と言うのです。われわれは、この施設の清掃業務を受託して、きれいにしたいと思っているのに、それが仕様で縛られてできないみたいな世界があるのは、やはりおかしいと思ったんです」

 同社が進めるコンシェルジュサービスには、そういった齟齬をなくすためにも常に状態をモニタリングし、利用者の不満、満足を確認しながら、仕様をアップデートさせているのだという。

従来の仕様からの変革DXがもたらす影響とは!?

 SmartBXが目指すのは、新たな清掃様式の提案と付加価値の向上である。昨年から入札にも参加し、従来の仕様書と同社ならではの提案を盛り込んだ新たな仕様書を並べたとき、オーナー自身は初めてといっても過言ではないほど、現状の管理費について考えるという。結果、同社の入札の勝率は7割という、新規参入とは思えない高い水準を誇る(次ページの「SmartBXの主な実績」参照)。

 「オーナー様自身は、清掃そのものに不満があるというよりも、『何をしているかわからない』と実態を把握していないケースがあります。コロナ禍で出社比率が下がって、従来と比べて汚れ具合も変わっているはずなのに、管理費は変わっていない。そこをお話ししながら、DXについての提案をすると刺さるのだと思います」

 単にコスト削減したからといって、品質まで落ちてしまったら元も子もない。そこは、ATP※を用いた品質チェックとお客様アンケートを適宜実施しているという。

 「総務部の方やその施設で働くテナント従業員の方にアンケートを取りますが、コンシェルジュの取り組みについて78%の人が満足してくれて、清潔度に関する不満はゼロでした。清掃業者が変わっても汚くなったと感じる人はいなくて、むしろ何か変わったことがあったらコンシェルジュに連絡すればいいという関係ができて、高い評価を得られていますね」

 現在では、このコンシェルジェサービスについてエリア管理することを念頭に置いている。コンシェルジュがその施設に常駐するのではなく、ある一定のエリアにコンシェルジュを配備し、1人で複数の施設に出向くような取り組みを試験的に始めているという。1人あたりの人件費で複数の施設を受け持つことができれば、オーナーとしてもコストを抑えることができる。

 「リモートコンシェルジュと呼んでいますが、すぐに駆けつけてほしいとか、1時間後でいいとか、そのお客様の要望に応えるかたちでサービスを展開できるといいなと思っています」

※全ての生物、有機物に含まれるATP・ADP・AMPを測定し、数値化することで対象物の汚れを評価。

SmartBXの主な実績

デジタル清掃の普及へ!実績を同業者にも還元

 デジタルと清掃を掛け合わせることで、業務の形態が少しずつ変化し始めてきた。SmartBXとしては今後、オーナーのみならず同業者へのサービス展開も視野に入れている。

 「すでにそういうお話もたくさんいただいておりまして、ビルメン側が『DXの取り組みをしたいけど、どういうふうにスキームを組めばいいのかわからない』という要望に対して、コンサルティングも行っています。もともとは、ロボットメーカーなので、当たり前のようにサービスロボットが走っている世界を作りたいんです。同時に、利益率が高い業態になっていかないと、当社もそうですが、現場スタッフの賃金を上げることもできません。一定量の業務量をデジタルの力に頼ることによって、費用対効果が出ますから、そのお手伝いをさせていただきたいと思っています」

 労働集約型の産業であるビルメンテナンスの世界。しかしながら、ますます深刻化する人手不足を前に、どんな策を練ればいいのか──。SmartBXが体現する業務形態は、その打開策の1つかもしれない。

※本文については「月刊ビルクリーニング2023年5月号」より転載。一部変更しております。

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